背景と課題
建設DXを支える「データの民主化」実現に向けてデータのサイロ化解消に取り組む
清水建設株式会社 デジタル戦略推進室 情報システム部長
室井 俊一氏
江戸時代の1804年創業、220年にわたり日本の社会インフラを支えてきた清水建設。「子どもたちに誇れるしごとを。」というコーポレートメッセージを掲げて、建設事業を柱に不動産開発やエンジニアリングなどの事業を展開する総合建設会社だ。長い歴史の中で受け継がれてきた「誠実なものづくり」と「顧客第一」をベースに、時代を先取りする「進取の精神」で果敢にビジネスに取り組んできた。
清水建設が2030年に目指す姿は、建設事業の枠を超え、多様なパートナーとの共創を通じて時代を先駆けて価値を創造する「スマートイノーベーションカンパニー」である。その実現に向けてDX(デジタルトランスフォーメーション)による変革を進めている。また同社では、中期デジタル戦略2020「Shimz デジタルゼネコン」を掲げ、業務内容やプロセスの見直しや、デジタル技術を活用した空間・サービスの提供によって、お客様や社会のニーズに応えられる体制づくりを強化している。
清水建設では、このDXによる変革を実現すべく、重要なテーマと位置付けているのがデータドリブン経営だ。データ活用における、従来の課題について清水建設 デジタル戦略推進室 情報システム部長 室井 俊一氏は話す。
「部門内で業務システムを利用したデータ活用は行われていたのですが、問題は部門によってデータがサイロ化されていたことです。社内のシステム間で使用するデータ形式が異なっており情報連携が難しい。そもそも部門内にどんなデータがあるのかも他部門からは把握しきれていない状態でした。データは有効活用されず、眠っているデータがたくさんあったわけです」(室井氏)
ユーザーがデータを利用しようとするにかかるリードタイムにも課題があったと、デジタル戦略推進室 情報システム部 データ管理グループ グループ長 岡崎 良孝氏は話す。「ユーザーから情報システム部門に、『こういうデータを使いたいから、Excelで出してください』といった依頼に対応するため、準備に1週間を要することもありました。また、ユーザー自身が他部門のデータをコピーして使うこともあり、データの鮮度とともにガバナンス面でも課題を感じていました」(岡崎氏)
全社統合のデータベースは存在したが、セキュリティの観点から従業員は直接アクセスできないようにしていた。こうした状況のもとで、データの民主化を実現するうえで鍵となったのがBIツール(Power BI・Tableau)の全社展開とデータ仮想化だった。
清水建設株式会社 デジタル戦略推進室 情報システム部 データ管理グループ グループ長
岡崎 良孝氏
導入のポイント
物理的にデータを移動させず仮想的に統合しデータを活用
導入支援パートナーには、実績と技術力を評価してジールを選定
清水建設株式会社 デジタル戦略推進室 情報システム部 データ管理グループ 主査
半田 貴志氏
BIツールを導入しただけは、データの民主化を実現することは難しい。「大事なのは、ユーザー自身が必要なデータを活用できる仕組みを構築することです。物理的なデータ統合ではコストや時間がかかります。そのため、物理的にデータを移動させることなく、仮想的にデータ統合ができる『データ仮想化』に着目しました。製品の選定を進める過程で、データ仮想化分野をリードするDenodoに出会った時、『まさにこれだ』と思いました」と、デジタル戦略推進室 情報システム部 データ管理グループ 主査 半田 貴志氏は話す。
Denodoの評価ポイントについてデジタル戦略推進室 情報システム部 データ管理グループ 吉野 友貴氏は、「散在するシステムを仮想化によって汎用的に接続することで、データ参照先をDenodoに一元化することができます。また、社内のデータ資産を目録として整理できる『データカタログ』を通じて、必要なデータをユーザー自身で探すことが可能です。効率化と品質の観点から、ユーザー自身がデータカタログをメンテナンスできる点も製品選定のポイントとなりました。Denodoは、データのコピーではなく透過的にデータを活用するため、ガバナンス強化とともにデータの鮮度を維持することができます」
Denodoの導入については、先行導入している同業の企業にも話を聞いたという。岡崎氏は、その様子を次のように話す。「導入時の苦労や活用状況、得られた効果など、幅広く話をお聞きし、とても参考になりました。そして、導入を支援したベンダーについて名前が出てきたのがジールでした。ジールには当社のデータ活用を支援してもらっており、これまでも技術力を高く評価していました。Denodoの導入実績も豊富なことから、今回お声がけしたところ、DenodoにおけるPoCの実施や構築、運用支援の提案をいただきました」(岡崎氏)
清水建設株式会社 デジタル戦略推進室 情報システム部 データ管理グループ
吉野 友貴氏
導入のプロセス
Denodoの知見に基づいてPoCを全面支援
データ仮想化とBIツールの両方のノウハウで課題を解決
清水建設は、これまでデータ仮想化への取り組みがなかったことから、PoCにおける技術支援が、プロジェクト成功の鍵を握る重要なポイントとなった。
プロジェクト推進・技術支援のポイント①
Denodoの知識やノウハウを生かし、ハンズオンのメニューを用意
2022年2月、清水建設はジールの技術支援のもと、Denodoによるデータ活用のPoCを実施。PoCで最初に行ったのが、ジールによるDenodoのハンズオンへの参加だったという。半田氏は、「データ仮想化の導入経験がなかったため、何から始めるべきかもわからない状態でした。ハンズオンでは、ジールが用意してくれたメニューに従って、実際に各機能に触れることで、データ仮想化に対する理解を深め、基礎的な操作を学ぶことができました。PoCにスムーズに入れたのも、ハンズオンがあったからだと思います」(半田氏)
ジールの佐藤は、「建設業を含むDenodoの導入実績に基づくノウハウを生かし、清水建設様に必要となるトレーニングメニューをご用意しました。清水建設様は知識の吸収が早く、PoCのQAのやりとりもスピーディに進みました」と語る。
株式会社ジール マルチクラウドデータプラットフォーム ユニット 第二部 コンサルタント
佐藤 葵
プロジェクト推進・技術支援のポイント②
導入実績で培ったノウハウと社内の知恵を結集しアジャイル開発のニーズに対応
株式会社ジール マルチクラウドデータプラットフォームユニット 第二部 シニアコンサルタント
猪野 隆太
仮想データベースでレスポンスが出るのか、サーバ側のリソースはどのくらい用意すればいいのかなど、ジールに対して清水建設は多岐にわたる質問や確認をしながら、導入に向けた取り組みが進められた。半田氏は、「PoCは手探りで行ったため、実際に進めてみないとわからないことも多くありました。当社の質問に対して、ジールからは迅速で的確な回答が得られ、納得感のあるPoCを行うことができました」と述べる。
ジールの猪野は、「過去の導入実績から作成したノウハウ集や、社内の知見者の知恵を結集し、清水建設様からのご質問に対して的確かつ速やかな対応を行いました。また、過去事例をベースにたたき台を作成し、実際に見て触ることで理解していただくように心がけました」と話す。
PoCでは、業務ベースでシナリオを作り、業務要件に合うかも確認したという。「シナリオは事業部にヒアリングを行い作成しました。例えば、人事部門ではリアルタイムの勤務実績データを部門ごとに把握したいという要望がありました。2024年に建設業にも適用される、年間時間外労働時間の上限規制に対応するためです。Denodoを活用し、複数のデータソースから勤怠データを収集し、BIツールでダッシュボードを複数用意しました。人事部門に実際に触れてもらい意見を反映しながら改善を繰り返しました。こうしたアジャイル開発が行えたのは、ジールのサポートがあったからこそ実現できたと思っています。この人事向けシナリオはさらにブラッシュアップし現在も利用しています」と半田氏は語る。
プロジェクト推進・技術支援のポイント③
DenodoとPower BIの技術によりSSO(シングルサインオン)を実現
2022年6月、PoCの結果が想定要件をクリアし、Denodoの採用が決定され、7月にはジールの技術支援のもとで構築を開始した。しかし、構築の最終局面でDenodoによるデータ統合環境とPower BIサービス間のSSO(シングルサインオン)がうまくいかない事態が発生したという。
ジールの佐藤は、「Denodoによるデータの統合環境とPower BIサービスのSSO連携は、これまでに例がありませんでした。SSOを行うためには、DenodoだけでなくPower BIに関する知識が必要で、当社が持つPower BIの知見をもとに清水建設様の基盤部門と密に連携し、スケジュールを遅らせることなく前例のない対応をやり遂げることができました」と振り返る。
導入効果と今後の展望
データ活用における情報システム部門の役割の拡大
「CO-ODE」によりオープンデータの活用環境整備が進む
2022年10月、Denodoによるデータ仮想化基盤が本稼働した。導入後1年が経過し、利用者数は順調に伸びているという。その数は現在、Denodoによる仮想統合環境に直接アクセスし、BIツールを使ってレポートを作成するパワーユーザーが100名、そのユーザーが作成したレポートを参照・活用するライトユーザーが500名にものぼる。
Denodo導入前は、仮想データウェアハウス(DWH)としての使い方を想定していたが、実際に導入したところ、利用範囲も広範にわたったと岡崎氏は言う。「今回、大きなメリットの1つが、既存のDBやCSVなどのデータを活用し、スピーディにDenodoで仮想ビューを用意できるようになったことです。仮想ビューとBIツールやローコード開発ツールを組み合わせることで、プロトタイピングのようなシステム開発ができることを実感しました。情報システム部門は業務により忙しくなりがちで、ユーザーごとに相談に対応するのは難しいこともあるのですが、組織としてのアジリティを高めるのに役に立つと感じています」(岡崎氏)
ユーザーが利用しやすいようにデータカタログも工夫した。「データカタログにどんなデータが入っているのか、英語の物理名と日本語の論理名を併記し、さらにデータの内容の説明文を記載して公開しています」と半田氏は語る。
管理もしやすいと岡崎氏は付け加える。「Active Directoryと連携しグループや組織に紐づけてデータへのアクセス制御を行っています。これにより、従業員の異動があった場合は、権限の外し漏れを防ぐことができます。またDenodoに連携したデータの定義情報を見るだけであれば申請も不要です。幅広いユーザーが使える状態にしています」(岡崎氏)
今後、活用できるデータを拡充していきたいと室井氏は話す。「現在は、工事データ、設計データ、人事マスタなどが中心です。社内に散在するさまざまなデータはもとより、クラウドサービスとも連携し、現場データなども有効活用していきたいと思います。また、多元的に分析したい場合に、オープンデータは有効です。しかし、一般的なオープンデータの活用では、データがそのまま使えないケースもあり、加工の手間がかかります。より活用しやすくするために、ジールのオープンデータサービス『CO-ODE(コ・オード)』も導入しました。最新情報が構造化データとして提供されるため、現場ですぐに活用することができます」(室井氏)
清水建設におけるDenodoによるデータ仮想化基盤の概要
清水建設は、DenodoとBIツールによってデータの民主化を支える基盤の構築を成し遂げた。室井氏は、「今後、業務システムのクラウド化はさらに進み、ロボット施工やIoTセンサーなどのデータも増えていきます。社内外に広がるデータをいかに集め、ユーザーの業務価値向上に役立てていくか。さらなるステップアップに向けて、ジールとは定例会を実施し、意見交換を行っています。当社の業務やデータ活用の考え方を理解したうえで、ジールには先進的な提案を期待しています」と話す。
ジールの猪野は、「清水建設様からDenodoを活用した将来像を共有させていただいています。目標の実現に向けて、当社のデータ活用分野における技術やノウハウを駆使し支援していきます」と決意を込める。
「スマートイノーベーションカンパニー」として持続可能な未来社会の実現に貢献する清水建設。ジールは常にお客様に伴走しながら「データの民主化」実現を支援することで、清水建設の成長と未来社会のインフラ整備に貢献していく。