公開日:2023年5月24日

更新日:2023年5月24日

 

自己紹介

大学卒業後、外資系IT企業のサン・マイクロシステムズ株式会社(現ORACLE)に入社し、新人研修の後、シリコンバレー本社にてJavaやXMLでの開発を経験しました。2000年にベンチャー企業である株式会社アプレッソの代表取締役に就任し、データ連携ミドルウェア「DataSpider」を開発し、SOFTICより年間最優秀ソフトウェア賞を受賞しました。2013年にセゾン情報システムズとアプレッソが資本業務提携したことを契機に、セゾン情報システムズのCTOを兼任するようになり、2019年からはクレディセゾンのCTOに。ベンチャーと日本の歴史ある企業との双方で経営に携わってきました。

昔からプログラミングをやってきて、かつ経営もしていて、ということについてそういう風に幅広くやっているのは意外だと言われることがありますが、実はプログラミングと経営とは共通項もあります。例えば、現代的なプログラミングでは、チームのメンバーや後任の担当者にとって理解しやすいソースコードを書いていくことがとても大切です。どういう表現の仕方をするとどれだけ伝わりやすいか、という意味ではプログラミングも経営も似ている要素があるのです。

 

本を書くきっかけ

仕事が忙しい、人手が足りないという職場は多いと思いますが、「この仕事によって、誰が喜んで、ビフォーアフターでこんなに違いが出るという点を教えてもらっていいですか?」と聞くと、「いや、これはやらなければならないことだと思っていたので……」というような答えが返ってくることがあります。何のための仕事なのか、誰の喜びに寄与するのか、ということがはっきりしていない状態で仕事をしているような場合がある、ということです。そういうものなんだという前提を置いて仕事をしていて、それで忙しい忙しいとなっているケースですね。このようなことは大企業でもベンチャーでも起こりがちなので、本の冒頭にこの質問を持ってきました。

 

本の中でのキーワード、日頃から言葉選びを意識

チームで仕事をしていく際には、みんなの気持ちが同じ方向に向いていた方が成果の出やすい強い組織になります。そのためには、短くて、誰にでもわかるような言葉で、自分たちが向かっていくべき方向性を表現する必要があります。ですから、そういうキーワードとなるような言葉を示していくことが大切だと思っています。個人的に昔から文章を読み書きするのが好きだったことがこうした考えにつながっているところもあるのかもしれません。

 

DXで重要なことは、使う人の喜びとか驚きを考えること

ITというもののとらえ方が、ここ数年で以前とは変わってきました。かつてITは業務の自動化や効率化のために用いられるものでした。ですが、最近ではITはサービスそのものの体験や面白さを決定づけるものになってきています。Uberを例に取ると、ドライバーがスマホのアプリの地図の上でこちらに近づいてくるのがリアルタイムに見えることが新しい体験でした。自動化や効率化ではなく、「おもしろい!」と思えるようなITの使い方です。私自身もこのような観点を大切にしながらプロジェクトに取り組んでいます。

  • CXは、「Customer Experience」お客様にとっての体験喜び。
  • EXは、「Employee Experience」社員にとっての体験喜び。
  • DXは、「Digital Transformation」CXかEXか、どちらかに寄与にしないといけないと思っています。

セゾン情報時代、社内にマッサージルームが用意されていました。エンジニアはデスクワークで座って仕事をする時間が長いので、エンジニアにとっては仕事中に15分のマッサージが受けられることはうれしいことなのです。マッサージをする方は、盲導犬を連れた目の不自由な方が担当されていて、その方がこう話すのです。「小野さん、私は通勤の時に盲導犬を連れているのですが、お手伝いしましょうかと、声掛けをしてもらって、本当にいろんな人に助けられていますが、本当はお給料いただいている仕事ぐらいは、誰の助けもせずに、自分ひとりで何とかならないかねって思ったりするんだよね」と、しみじみおっしゃっていました。

それを聞いて僕らが注目したのは、スマートスピーカーAmazon Echoです。内蔵されたAmazon Alexaを使って、今までバックオフィス系の人が、ローテーションで、マッサージルームの予約台帳を読んで、マッサージルームを運営していましたが、この業務をAmazon Echoで代替してみたのです。

Amazon Echoに「次の人を呼んで」と指示すると、クラウドの予約台帳を見に行き、スマホのSlackやskypeなどで、次の人に順番が来たことを知らせます。もし営業の商談が長引いてマッサージを受けられないような場合には、その旨をリアクションすると次の人が繰り上げられて呼ばれます。定量的な面でも、マッサージの回転率が何パーセント上がったとか、色々ありましたが、一番意味があったと思うのは、3ヶ月くらい運用した後に、先ほどの同じマッサージの方に「試験的に入れてみたけど、どうですか?」と聞いたら、その方が「今、私は1人で仕事をしてる!自分だけで仕事をしている!!」とおっしゃいました。仕事の質が変わったという話をしてくれました。スマートスピーカーを調査していると、何でもスマートスピーカーでやってみようとなりがちですが、そうではなく、マッサージをする間は手が塞がってる、目が不自由な方がマッサージをしているということを考えて、声と耳だけで使えるスマートスピーカーを使うことにしました。

 

CXについて

「Customer Experience」、ある商品やサービスの利用におけるお客様視点での体験です。クレディセゾンに僕が2019年3月にして、そこから作った例ですが、<セゾンのお月玉>というのをはじめました。お年玉って1年に1回子供に渡したりするものですけれども、<セゾンのお月玉>は毎月もらえるお年玉 = お月玉というコンセプトで始めました。セゾンのクレジットカードで500円以上の決済をすると、デジタル抽選券がスマホにザクザク貯まり、翌月15日の抽選で、スマホのアプリでガチャが回って当選すると、現金1万円が現金書留で届くというものです。現金書留が茶封筒だと味気ないので、2月にはバレンタインの板チョコのデザインや、クリスマスシーズンだとサンタさんという様に、遊び心ある現金書留にしました。デジタルチームであるはずの僕らが、あえて現金書留1万円を送る意味は、何でもデジタルに寄せるのが正しいわけではないと考えたからです。クラウド、AI、ブロックチェーンを使えば、最高の顧客体験が実現できるかというと、そうではありません。1万円当たったら請求時から1万円引きますという方がデジタルで、現金1万円を現金書留で届けるのは、アナログですね。1万円をもらった時に、どっちが嬉しいか?と当たった人の立場になって考えた時、請求時に気づかないうちに1万円引かれているデジタルのやり方と1万円が届いて現金書留?あれ?なんだろう??と思って確認したら、かっこいい封筒に「1万円が入っていた!!」という方法。後者の方が嬉しいわけです。CXとしては現金書留の方が良いと考えたわけです。

 

To Do リスト の逆 To Stop リストを実行する!?

やるべきことのリストはTo Doリストとして多くの人が作成していると思いますが、その逆のやめるべき仕事のリストが To Stopリストです。僕自身のTo Stopリストは?と聞かれると、担当している部署の仕事の中で、「これ誰がうれしいの?」ということについて「それいまちょうど悩んでいるところなんですよね」となってしまっているようなプロジェクトに入って行って、こういう風にしたらきっとたくさんの人が喜んでくれるよね、ということを一緒に考えていく。それが見えなかったらやめていく、ということをしている。それが今一番取り組んでいるTo Stopリストです。

本の中で紹介しているTo Stopリストの具体例で、無駄な定例会議をやめようというものがありますが、リモートワークで雑談がなくなって、定例会議が増えたというような声も聞きます。僕らのチームは週1回の定例会は、半分以上は雑談しようと目標を決めています。お互い、いつも隣にいるわけではないので、だからこそ、雑談を定例会の中に入れていこうというアプローチなのです。もちろん決めごとなども色々とあるのですが、定例会議で話す以外にも、Slackなどで、文字ベースのコミュニケーションでも決められるものも少なからずあります。何かを選ぶということは、シンプルに考えれば、選択肢として何があるのかを整理し、それぞれの選択肢の特徴を列挙し、あとはその中から選ぶだけのことだと言えます。ですから文字だけで完結することもあります。

他にやめたほうがいいことの例として、手作業のデータ集計などがあります。実はもっとやり方があるよね、と提案されても、経営層からROIはどうか?、初期投資に大きなお金をかけるのは、この状況では厳しいなどと言われて、結局その非効率のやり方を続けていくというのは、よくある話だと思います。非効率なやり方が、継続している年数分、掛け算で非効率さが増えていきます。そのため、非効率さを定量的に判断して導入すれば、すんなりいく場合もあります。ただ、忙しすぎて定量的な計算に時間が割けない場合は、非効率であるがゆえに忙しく、いつまで経っても改善に着手できないというネガティヴスパイラルに陥ります。あまり大きく時間やコストをかけずに、新しいツールなり新しいやり方を実験的にやってみて体験して、その良さを自分事として語る誰かがいるかどうかが大切です。まずは、小さなところでの感動を体験してもらうのが良いと、僕は思います。

力の抜き方

力の抜き方については、自分の仕事で生み出そうとしている結果や、成果が何なのかを明確にすることが大切だと思います。例えば、プログラマーであれば、今作っているプログラムが完成すること。そして実行速度も速くて、後々トラブルもなく、見栄えのいいUIが備わっていて……というように、成果が明確です。ひと言で表現するのならば、良いプログラムを作ることなわけです。極論すれば、良いプログラムを作ることが担保できていれば、昼寝していようが、出社しようがしまいが、なんでもいいという事になります。こうなると、力を抜ける場所を探すことができます。忙しすぎて成果が何なのかをはっきりさせること自体ができなくなると、力の抜き方もわからず、結果的に忙しい状態からいつまで経っても抜け出せない、ということになってしまいます。自分たちの仕事の成果を明確にしないと、力を抜く場所は見つけられないです。それが見つかれば、その人のライフスタイルや、ワークスタイルに合わせた力の抜き方はいくらでも考えられるはずだと思います。

 

力を抜いている時間の使い方

僕の場合は、いつも定時に帰るように心がけていて、もちろん緊急の時は残る場合もありますが、基本的に18時に帰ります。家に帰って何をするかというのは、とても没頭してるゲームがあれば、ゲームをしたり。僕の「CTO」は<Technology Officer>ではなく、<Tasting Officer>と言われるくらいワインが好きなので、ワインの色々な購入ルートを調べ、買ったり、飲んだりしたり、子供がいる時は家族と一緒に遊んだりなどしています。毎日定時に帰るとすれば、毎日力を抜くようなもので、ある時だけ集中して短期間に、というよりかは日々の中で力を抜く時間を見つけていっているという感じです。ちなみに、今没頭しているゲームは、ワイン友達から聞いた少し前のゲームで、リマスター版が出た The Last of Us です。1が名作だからやった方がいいと強くリコメンドされて、ちょうど昨日クリアしました。毎晩最低2時間ぐらいゲームをしています。

 

没頭できない仕事はやめてしまえ!

最初から明らかに没頭するような仕事ってありますよね。そういう仕事はみんな没頭して取り組む。けれど、一見すると、つまらない様に見えるけれど、見方を変えると面白くなる仕事もあります。一例で言うと、役員としてセゾン情報システムズにいた頃の話です。メンバーのひとりが「経営会議で報告する資料作成は、必要であることは分かりますが、作業としてやっているので、全く楽しくない」と、雑談していた時に言ったことがありました。その時に僕は、「つまらない資料を作っているから、つまらないと感じるんじゃないかな?経営会議での部門ごとの報告資料って、経営者に直接夢を伝える最大のチャンスという風に受け止めることができるよね。普段話しかけられない人に対して、こういうことやったら会社として面白いと思います!と言うチャンスでもあるので、そういう内容を盛り込んでみたらどうかな?」とアドバイスしました。するとその人は、経営資料を作る仕事に対する見方がガラッと変わったと話していました。つまり、受け止め方や位置づけを変えると、同じ仕事が、全然違う見方をするということなのです。そういう意味も含めて、没頭できない仕事はやめる。やらなければならない仕事は、没頭できるように形を変える。これが大事だと思います。

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