公開日:2024年1月15日

更新日:2024年1月15日

「NOVEL AI」は、ジールの「StoryAI」を講談社文芸第三出版部向けにOEMで提供しているサービスです。対象となるテキスト情報をNOVEL AIにアップロードすると瞬時にAIが読者の感情を分析し、より訴求力を高めるための改善提案を行います。

講談社文芸第三出版部は、見たことのない才能や作品を読者に届けるために1994年に文芸誌『メフィスト』を出版し、また公募文学新人賞「メフィスト賞」を主催してきました。さらには「謎を愛する本好きのための会員制読書クラブ」としてオンラインの「メフィストリーダ―ズクラブ〈MRC〉」を立ちあげ、新たな読書体験を模索しています。そしてこのたび、新たな才能への気づきの提供や斬新な発想への期待も込め、メフィストリーダーズクラブ有料会員へのコンテンツのひとつとしてNOVEL AIの提供を開始しました。

このNOVEL AIについて、実際のところ作家や編集部はどのように考えているのでしょうか。作家の潮谷験(しおたに・けん)さんと『メフィスト』編集長の小泉直子(こいずみ・なおこ)さんに話を聞きました。

【小泉直子さんプロフィール 】

2014年9月 講談社入社。文芸第三出版部配属
会員制読書倶楽部Mephisto Readers Club 発行の小説誌『メフィスト』編集長

【潮谷験(しおたにけん)さんプロフィール】

1978年京都生まれ。
龍谷大学文学部史学科東洋史学専攻卒業。
2020年、『スイッチ』で第63回メフィスト賞を受賞。
2021年、同作品を改稿した『スイッチ悪意の実験』でデビュー。
同年、第二長編『時空犯』がリアルサウンド認定2021年度国内ミステリーベスト10の一位に選出。
変格ミステリ作家クラブ・日本推理作家協会・日本文芸作家協会・本格ミステリ作家クラブ会員。

 

「不完全なAI」を今あえて描く

――まず潮谷さんからお話をお聞かせください。

潮谷さん:2020年に『スイッチ』という作品で講談社のメフィスト賞をいただき、翌2021年にそれを改稿した 『スイッチ 悪意の実験』という作品でデビューしました。現時点で講談社から4作品を刊行しています。


直近の最新作は2022年9月に発売された『あらゆる薔薇のために』です。人間の体に薔薇のような腫瘍ができ、それがもとで事件が起こるという「特殊設定ミステリー」と呼ばれるジャンルの作品で、2024年1月に文庫化される予定です。

また、小説誌『メフィスト』で、AIが登場する『誘拐劇場』という作品の連載を始めました。 AIの使い方が 他の作品とは違ったものを考えていますので、その辺に注目していただければうれしいですね。

ChatGPTなど優れたAIが出てくる時代になっていますが、作品にはちょっと不完全な、抜けたところのあるAIを出したくて。何でもかんでも 「分かりません、分かりません」を連呼するAIを登場させてみました。そういうAIは今後、リアリティがなくなっていくかもしれない。あと数年くらいで“ちゃんとした”AIばっかりになるんじゃないかなという気がしますので、今登場させてみました。


――小泉さんの近況もお聞かせください。

小泉さん:講談社の小説誌『メフィスト』の編集長をしています。会員制読書クラブ「メフィストリーダーズクラブ」(月額550円、年額5500円)が会員向けに年4回発行している小説誌です。これ以外にも小説の書籍編集を担当しています。


――編集長になられて何年ぐらいになりますか。

小泉さん:メフィストリーダーズクラブのスタートと同時で、2021年の10月からです。メフィストは1994年創刊で、当初は紙雑誌として刊行され、2016年からは電子書籍のみで発行していました。それをリニューアルし、有料のオンラインコミュニティであるメフィストリーダーズクラブの誕生とともに会員限定・郵送型の小説誌に刷新しました。

2021年秋に発行した第1号と2023年秋の第9号

――メフィストリーダーズクラブは、コミュニティ作りのために発足したのでしょうか?

小泉さん:そうなんです。発足当初は「サブスクリプションサービスなの?」と言われることが多かったのですが、それよりコミュニティサロンに近いと思います。大きなコンセプトとしては「謎を愛する本好きのために」。自分が好きなものについて語ったり 、同じ興味を持っている人が新しい情報を共有できたりと、居場所のようなところを作りたかったんです。

――その中のいち機能として、NOVEL AIを導入なさいました。NOVEL AIは書き手向けの機能ですよね。導入にあたってどんな議論があったのでしょうか。

小泉さん:メフィストは、雑誌の名を冠したミステリーの新人賞「メフィスト賞」を大事に運営してきました。第ゼロ回の受賞者が京極夏彦さん、第1回は森博嗣さんと、受賞後に幅広くご活躍されている作家さんが多い賞です。

メフィストリーダーズクラブ以前、紙の雑誌や電子書籍だったときは、編集者だけで年に3回、選考会をしていました。リーダーズクラブ発足以降は、編集者だけで選考する形はそのままに上期と下期の年2回選考を行なっています。

新人賞の原稿を読むことは、私たちの大事な仕事の一つです。編集者として、これからの書き手に対しては常に目を向けています。昔から、新人さんやデビューしたいと思っている書き手さんとは、精神的な距離が近いと思っています。

そうした中で、NOVEL AIが画期的なシステムだと聞きました。メフィストリーダーズクラブに足りない部分を補完するコンテンツなんだろうなというのが、最初に直感的に思ったところです。編集部の中でも同じ感覚だったので、探していたものがハマったなという思いで、ごく自然に導入することになりました。

 

書き手のモチベーションにつながれば

――書き手を応援するための何かを探していたのですか?

小泉さん:そうですね。新しい形を探していました。

メフィスト賞の選考は、部長と6人の編集者が応募作品を読み、自分が読んだ中で推したい作品をプレゼンして決めていくというものです。最初のプレゼンで候補に挙がったものを再度他の編集者も読み込み、「良いところと足りないところ、直したほうがいい箇所などを話し合う」という座談会をやっています。それを「メフィスト賞座談会」という名称で、編集者をイニシャルにして公表しています。

小説家はデビューをすれば編集者がつきますが、それまでは一人です。選考結果を座談会形式で公開して率直な感想を伝えてきたのは、創作行為の壁打ち相手になり得るのではないか、応募者の孤独を軽減できるのではないか、と思ったことが発端です。

メフィストリーダーズクラブという新しい形になった時に、座談会を補完する新しいデジタル的なものを探していました。座談会と、もう一つ新しい接点として何か新しいものがあったら楽しいよね、と検討する中で、NOVEL AIのお話が来たというわけです。

――NOVEL AIを実際に導入してみて、いかがでしたか?

小泉さん:今は認知してもらう段階にあるのかなという感じがあります。利用者アンケートを取ってもいいのかなと思っています。新しい会員の皆さんに宣伝する方法にも改善の余地があるかなとも思っています。

――ご自身で触られて使われたことはありますか?

小泉さん:導入時の説明のとき、NOVEL AIにアップロードした文章の分析結果を見せてもらいました。「どこで盛り上がっているか」などがグラフィカルな波形になっていて一目瞭然でわかりやすく驚いたことを覚えています。作品によってその形がまったく異なることも印象的でした。

――NOVEL AIにどんなメリットを期待されていますか?

小泉さん:書き手の方や、新人賞にこれから応募しようと思ってくださる方のモチベーションにつながるものになったらいいなと期待しています。

 

ストーリーの盛り上がりまで数値化できることに驚き

――NOVEL AIもAIを活用したサービスですが、最近は生成AIによる創作物の生成が話題です。潮谷さんもこうした生成AIのサービスには触れられているのですか?

潮谷さん:ChatGPTやお絵かきAIは少し触りました。絵が下手なので、文字を入力したりすると絵を描いてくれるAIを試してみましたね。割とすぐに思い通りのものを作ってくれたんですが、入力が不十分なのか、絵柄が似通ってくる感じがあって。うまく操作しないとダメなんだなと思いました。プログラムというか、自問のようなルールが必要なんだなと思いますね。


――NOVEL AIを使ってみた動機とご感想は?

潮谷さん:文章をAIで分析するというのはどういう感じなのか想像もつかなかったので、興味を持って使ってみました。小説のアイデアで使えそうなものがないかな、という思いもありまして。

驚いたのは、感情を数値化したり、文章のリズムを重視したりできる点です。AIなら、余分な要素を除外して筋の通った文章だけを評価するなど、内容が伝わりさえすればいいという発想をするかなと思っていたので、リズムという要素があったのは予想外でした。私も書くときはリズムを重視していて、リズムが悪いと書き進められない面があります。

――編集者からアドバイスを受ける時は、リズムより内容面が多いですか?

潮谷さん:そうですね、「この文章のリズムがおかしい」といった細かい指摘はあまりないですが、内容のメリハリに対するアドバイスはありますね。この辺はちょっと中だるみがあるとか、この辺にワンクッションを置いた方がいいなどです。そういうのも、大きなリズムとしてNOVEL AIで扱われている感じがしました。ストーリーの盛り上がりまで数値化していたのには驚きましたね。

――その数値は、ご自身の実感と合っていましたか?

潮谷さん:かなり合っているところもありました。例えば、デビュー作『スイッチ』は受賞後にある程度書き直して出版したんですけれども、書き直し前のものと後のものと比較していただいくと、後の方が メリハリが付いていると判断されまして。自分の試みが評価されているんだなというふうに感じました。

受賞作(赤)と出版作(青)の比較

 

―― 客観的なフィードバックがすぐに得られると。

潮谷さん:そうですね、 ものすごく細かい感情の変化は拾い損ねている部分もあるみたいなのですが、全体的なメリハリ、ここが上がってここが下がるみたいなのは捉えられているかなと思いました。細部まで頼ると違う感じになると思うので、大まかな ゴールみたいなもの、ゴールそのものではなく 目標みたいなものを出してくれる感じがしました。

 

 

受賞作の感情曲線(エモーショナルアーク)

デビュー前の作家の推敲に役立ちそう

――完璧なアドバイスではないが、何かしら役立つものというような印象を受けたと。

潮谷さん:そうですね。デビュー前だと、書いている最中に「この文章はおかしいんじゃないか」とか感じたり、切羽詰まってくると、自分ではちゃんと文章を書いているつもりだけど他の人から見るとグダグダになっているんじゃないかと不安になったりすることは、 私に限らずあると思うんですが、それに対してある程度保証してくれるというか、ちゃんとした文章になっている、基本はできていると教えてくれるのは素晴らしいと思うんですよね。

これまでなら例えば、小説の新人賞の一次選考を通れば、少なくともちゃんとした文章は書けているんだなと確認できたと思うんですが、そうでもなければ分からなかったので、NOVEL AIを使ってそういう基本的な保証みたいなものができると、小説を投稿される方も励みになるんじゃないかなと思います。

出版時の感情曲線

――潮谷さんは、文章を書くとき、書きつ戻りつされるタイプですか? それとも最初から一気に書いて後から細かく直しますか?

潮谷さん:書けるところはずっと行ってしまうんですけれども、なんとなく文章が変だなとか上手い言葉が出ないなってなったら止まってしまうので、書きつ戻りつという感じになりますね。

―― 一文の表現を考え込むこともありますか?

潮谷さん:プロになってからは、編集者さんが求めることもある程度分かるようになり、ここの表現はそんなにこだわらなくていいなどが分かるようにはなってきたので、アマチュア時代の方が、文章を書くのに時間がかかりましたね。 

――頭の中にあるイメージにぴったりな文章を探してしまう。

そうですね。厳密に言えば、それをずっとやっていくべきなんですけれども、作業時間も考えると、ここは飛ばしてもいいだろうという判断もします。

 

人間にしかできないと思っていたことが、そうではなかった驚き

――NOVEL AIをどのように使われていますか?


潮谷さん:章の一部だけ取ってきて、特に重要な場面のリズムを見るという使い方をします。長編なら、特徴のない文章がしばらく続いても問題はないところがあるんですが、原稿用紙10枚くらいの短編だと、全体のバランスが 取れていないと読み返して気持ち悪くなってしまうことがあるので。短編とか、それより短い掌編の方に使えるかなという気がしています。

掌編やエッセイを書く時はNOVEL AIに読み込ませてみて、どういう評価になるのかを見たりしています。エッセイは、例えば雑誌の片面1ページ分くらいのものを読む場合などに、リズムがいいと一気にさらっと読めて頭に入ってくると思うので、リズムは特に重視するべきだと思っています。ですから、リズムが落ちていることを教えてくれるのは素晴らしいと思います。

AIなので、既に数値化されたものを指摘してくれるのかなと思ったら、割と曖昧な部分に対する指摘もあるので予想外でした。

フィクションでコンピューターを使うときに、割と尺子定規に「そんなデータはありません」などと言ってくるイメージがあったんですけれども、NOVEL AIも含めて最近の進歩したAIを見た感じだと、意外とそうではないんじゃないかと感じています。人間にしかできないと思っていた分野が意外とコンピューターもできてしまうということがある。創作の幅、想像力が広がりましたね。

 

編集者は読者目線、NOVEL AIは「作者の視点」でアドバイスをくれる

 

――NOVEL AIからのアドバイスと 編集者からのアドバイスに違いはありますか?

潮谷さん:編集者さんの場合は例えば、要素の追加や削除……ミステリーの場合は、読者を最後に驚かせる要素がもう一段階あった方がいいとか、このキャラクターはいない方がいいとか、ここで話を分かりやすく説明した方がいいんじゃないかとか、具体的に読者目線の指摘をいただけます。NOVEL AIの場合は、各キャラクターがどうこうではなく、この辺の波が悪いということを指摘してくれるので、意外と作者の視点なんじゃないかと思いました。

編集者さんはすごく優れた読者でもあり、編集者さんに分かりにくいことはそれ以外の読者にも分からないだろうなというのがあるので、ある意味プロフェッショナルの読者という要素もあると思うんですけど、NOVEL AIの場合は完全に読者の目線ではなくて、作り手の目線をコンピューターが持っているのかなと感じました。

―― 編集者というよりは共作者に近いのかもしれない。

潮谷さん:バランサーという感じですかね、リズムの面で言いますと。
ここの文章が間違ってますとか指示を加えてくるというより、やんわりとルートを示してくれる感じだなと思いました。創作の道具というよりは、ちょっと横に立っている感じですね。道具だと手で使っている感じですが。

――NOVEL AIのサービスで、改善すべきと思った点はありますか?

潮谷さん:ミステリーを書いていると、いわゆる盛り上がりよりも論理とかの面白さみたいなのを重視するときがあるんですけど、それは拾ってくれないところがあるかなと思いました。

あと、これは仕方ないことかもしれないんですけど、処理速度が…… もうちょっとすぐに出してくれたら嬉しいかな。NOVEL AIに読み込ませるための専用フォーマットを作るのも、長文の場合はかなりしんどい感じなんです。なので専用フォーマットに自動で書き換えてくれるような機能があれば もっと使い勝手がいいんじゃないかなと思います。

――作者のこだわりをAIが分かってくれない、みたいなところがあるんですか?

潮谷さん:そうですね。推理小説って、延々と会話が続くことがあり、特に優れたベテラン小説家の方だったら 、警察と容疑者が取調室で延々とやり取りをしているだけで面白くて話が成り立っているという方もいらっしゃると思うんですけど、おそらくそれをNOVEL AIが見ると、割と平板だと判断する気はします。テキストそのものを完璧に理解しているわけではないと思うので、その辺はちょっとずれがあるかなという感じですね。

――作者の腕の見せ所はまだちょっと理解しきれていないと。

潮谷さん:盛り上がり盛り下がりがあるというのはエンタメ小説が基本なんですけど、エンタメ小説以外だったらちょっと厳しいかなと思います。個々の文章のリズムは、十分評価してくれていると思いますが、エンタメ小説ではなくてもリズムは必要だと思いますので。

――原稿にわざと変なものを入れ込んでみて、編集者の方に理解してもらえないと残念に思うことがあったりしますけれど、そういうところはAIでも同じだと。

潮谷さん:すごくイレギュラーなことをしてくれた時に拾ってくれるのかどうかというのは、ちょっとわからない感じがありますね。

 

AIは“編集者”になれるか?

――編集のお仕事も、デジタルにシフトしてきていて、今後AIも使われていくんだろうと思うんですが、小泉さんはそういった変化を感じることはありますか?

小泉さん:一番分かりやすいトピックスとしては、作家さんとの雑談レベルですが、生成ソフトで書かれた小説が応募される時代に今後なるのではないか、という話をすることは多いですね。それを編集者、人間がどう分別できるのかは難しい問題です。ちょうどメフィスト賞の下期選考会が終わったところで、今回は受賞作は出なかったのですけれども、応募作の中に、AIで生成された作品があったかどうかは分からないですよね、今のところは。

編集者6人で、1人当たり90本弱ぐらいの応募作を半年かけて読みます。ただ、締め切りギリギリに届く作品が多いので、実質2カ月弱でそのほとんどを読むことになります。自分が読んだ作品の中で推したいものがあれば、 1、2本を次の段階に選び、それをまた他の編集者と、部長も入れた計7人で読むという感じですね。

メフィスト賞座談会はもともと、メフィストの巻末に掲載していました。自分の名前が載っているかもしれないと楽しみにメフィストを買ってくださる応募者もいらっしゃいました。 メインで議論の的になった作品以外でも、ちょっと気になる作品には、編集者が個別に一行コメントを入れることもあり、そこに載っているだけでも応募へのモチベーションになり、次も頑張って投稿してくださる、など応募者との大切な接点だったんですよね。

メフィストリーダーズクラブの中に、NOVEL AIのような書き手向けの機能があると、応募者と編集者の接点を補完してもらえるという感じはすごくあります。

――賞への応募者の増減はどうですか?

小泉さん:応募者はありがたいことに減少していません。応募受付リストを公表しているので確認していただけると思いますが、「書きたい」と思われる方が増えているんじゃないかなという印象はあります。

世代もいろいろです。10代……高校生や大学生の方もいれば、70歳代の方もいらして、幅広いですね。統計をとればおそらく10代は比較的少なめですが、若い方が応募してくれると嬉しいですね。

―― 賞の選考で、編集者1人当たり90本を読むのは大変だと思います。そういったところにAIを使うことは検討されますか?

小泉さん:活用できたら仕事は楽になりますが、まだちょっと不安ですね。 自分で作品を読んでいても、何か見落としているんじゃないか、才能をこぼれ落としているんじゃないかという不安が強いので。それをまたさらに、自分以外のものに頼るというのはまだ怖いです。

――“8番目の編集者”として使うのはどうですか? 座談会の時、AIを通した評価値も参考にしてみたり。

小泉さん:やってみたら面白いかもしれないですね。ただ、それを応募者・読者に伝える言い方がすごく難しいなと思います。応募してくださる方は、編集者、その先の読者――つまり人間に読んでもらうために書いているわけなので。

――書き手がAIの評価値を見ながら修正していく作業は定着していくんだろうなと思うんですが、それで作られるのはあくまでも、人間が楽しむためのコンテンツですからね。

小泉さん:そうですね。小説って、ありようがすごく難しいんです。 何のために小説が存在しているのかというところからそもそも語らなきゃいけなくなってきてしまうというか。

小説は、情緒の塊みたいなものじゃないですか。映画などに比べて小説は一人で書いて創り上げるものですから、より研ぎ澄まされた強固な感性の発露です。まだまだハードルが高いと思います。

 

AIによる評価を“言語化”の参考に

――NOVEL AIの分析結果は、人間のフィードバックとは違いますもんね。

小泉さん:そうですね。でも原稿の足りなかったところを考える際は参考にできると思います。新人賞の原稿で何が足りないかを指摘するとき、適切に言語化するのはとても難しいんです。面白いことは言語化できるんですけど、何がダメかについては難しい。

例えば、作品をNOVEL AIに分析させると、盛り上がりが後ろに来ているといったことが分かる。じゃあ自分が感じたものもそういうことなのかなと、言語化して伝えることができる。何が足りなかったのかを論理的に伝えないといけない時に、NOVEL AIが言語化の助けになってくれるという期待はありますし、編集者として、そうした武器が増えればいいなと思います。

――NOVEL AIを使ってみた作家さんからのフィードバックはまだ届いていないんですよね?

小泉さん:まだ届いてないですね。こちらから拾いに行かないといけませんね。アンケートを取っても面白いのかもしれない。座談会をウェブにアップするんですが、その最後にメフィストリーダーズクラブに誘導してNOVEL AIを告知するのはいいかもしれませんね。NOVEL AIのサイトの方にメフィスト賞のURLを貼るのも良いかもしれない。

――今後、AIがより普及していくと、AIならではの小説の書き方みたいなのが見えてくるのかもしれませんよね。今は「AIで作った絵だな」とか「AIっぽい文章だ」と何となく分かる段階だと思いますが。

小泉さん:どうなんでしょうか。私はまだ、AIが書いた小説を読んだことがないので比べられないんです。たしか7~8年前に、AIが書いた小説の応募作が一次選考を通った、というニュースがありましたね。すでにあの時にAIで書かれた作品があったっていうのが衝撃だったことをよく憶えています。

――ChatGPTのようなLLMが人の心を動かせるのかというと、細かいところでは難しいといわれています。長期記憶も苦手ですし。例えば小説は、キャラクターがどう行動したかを最初から全部つないで書く必要があります。AIは、少しはできるようになってきましたが、まだ難しい。

小泉さん:特にミステリーは、冒頭で伏線があってラストでオチをつけないといけないので、超長期記憶が必要です。それができたら すごいことですよね。

――例えば、トリックを考えてくれるAIがあれば使う作家さんいらっしゃるんですかね?

小泉さん:あるかもしれませんね。トリックを考えるのは大変な仕事ですから、それが実現できたらすごいですが、なかなか難しいとは思います。ただ、そのAIも実際は過去の膨大な作品情報を参照してサジェストしてくれる形になるだけなので、新しいトリックにつながるかどうかは未知数だと思います。

 

処理速度に不満も

――潮谷さんに伺います。NOVEL AIの処理速度ですが、例えばエッセイ1本の処理にどれくらいかかりますか?

潮谷さん:私のパソコンとかネット環境に問題がある可能性もあるんですけど、15分くらいかかることもあります。もっと高性能なネット環境なら問題ないかもしれませんが。(※1)

※1:解析システムは常時起動しておらず、初期起動に時間がかかります。ただ、すでに起動している場合は高速で比較的短い文章なら数分もかからず完了します。今後高速化を予定しています。

――クラウドサービスですとそのくらいかかっちゃうかもしれないですね。15分だと、待ちたいですけど待つには微妙にリズムが崩れる時間ですよね。長編を丸々入れるともっとかかる可能性もありそうです。

潮谷さん:そうですね、長編一作丸々を試したことはなく、 文章の一部のリズムを見ているだけなのですが、全体的なバランスを見たいというニーズはあるんじゃないかなという気がするんです。長ければ長くなるほど 全体のバランスが分からなくなってしまうこともあると思うので。

――専用フォーマットに変える作業もハードルになっていると。

潮谷さん:そうですね。締め切りギリギリだとフォーマット変換がハードルになり使えないです。フォーマット変換もAIできるんじゃないかなとも思いますが、登場人物の名前にマークを付ける作業があり、名前を厳密に把握するのは難しいのかなとも思います。特に日本語圏では名前にいろんなパターンがありますから。英語圏だったら 人の名前のパターンで結構決まっていると思うんですが。(※2)

※2:ある程度のフォーマット変換機能は今後実装予定です。

それこそ、動詞なのか名詞なのか分からないというのが、英語圏ならおそらくないと思うんですけど、日本語圏とか中国語圏とかはある可能性があるので。 ほかにも、特に日本語は判断次第で主語を省いたりとかしますし。

 

仕事のメールや手紙文にも使える?

――長編を丸ごと入れようとすると、フォーマット変換の手間は大きいんですね。 

潮谷:そうですね。ただ長編は、時間をかけて作るものなので、最初からNOVEL AIに使う時間を設けておくべきだとは思います。 大長編を書かれる方などは、人間の視点では全体のバランスが測れないこともあると思うんですね。 なので、ものすごく長い長編こそ、NOVEL AI、機械に見てもらったらいいなというところがある。 長編でも使ってみたいし、効果、メリットはあると思います。

――他に何かご意見はありますか?

潮谷さん:NOVEL AIは、講談社さんの会員制サイト「メフィストリーダーズクラブ」の中にあるんですが、そのサービスとNOVEL AIのサービスが別個のものになっている感じがあります。なので、 例えば会員から投稿を募ってコンテストみたいなのをやってみるなど、会員がNOVEL AIに興味を持つようにしてもいいんじゃないかなと思います。どっちかというと講談社さんの判断になるとは思うんですが。使わない人はまったく使わないし、 これは何だろう? で済んでる方も結構いると思うので、それはもったいないかなと思います。

NOVEL AIを審査員にしたコンテストもあったほうがいいんじゃないかなと思います。

――作品の中に盛り上がりをどれだけたくさん作れたかとか、ちょっと変わったコンテストができそうですね。

潮谷さん:NOVEL AIが100%良いと判断した小説がどんな感じになるかというのは興味がありますね。

 ――いろんな人が参入してきたら面白いですよね。 AIをハックする方向を目指すプログラマーみたいな人とか、人間が読むと何かよくわからないけど、AIの評価だけはすごく高い作品とか、面白いですよね。 今だと、小説を書かない人だと触らない状態ですから。

潮谷さん:最近はX(旧Twitter)やブログもありますから、 何らかの方法で文章を書いている人は結構いると思います。小説以外のさらっとした業務報告文にもNOVEL AIは使えるんじゃないかなって思うことがあって。

 実はビジネス関係や時候の挨拶の方が、 リズムを重視すると相手に爽快感を与えられると思うので、 そういう利用方法の余地もあるんじゃないかなと思っています。

――ChatGPTでメールのたたき台を書く人が増えてきていますけれども、 それとはちょっと違う使い方ですよね。

潮谷さん:文面を考えるのはあくまで自分。AIはそれを評価してくれるというのが、 他のAIと違うところかなと思います。

 

「勝手に文章を変えてしまうAI」ではない

――NOVEL AIを使うようになって書き方は変わりましたか?

潮谷さん:今のところはっきりとはないんですが、 後でバランスを見てくれるので、 結構無茶して挑戦してもいいかな、と思えるところはありますね。 

 リズムを見てくれるサービスは、他の小説家さんも求められている部分はあると思います。ただ、NOVEL AIが自分の文章を書き換えてしまうんだろうと勘違いしている人も多いと思うので、 実例がもっと広まればいいかなと思いますね。

 私も最初話を聞いたときは、 小説を入れたら、NOVEL AIが修正した正しい文章を見せてくれるような、 押し付けてくるような感じかなと思っていたんですけど、 実際使ってみるとそうではなかったので。 

―― 勝手に文章を変えられるのでは、と思うとちょっと引っかかりますもんね。

潮谷さん:そうですね。 画像生成AIも含めて、 AIに拒否反応を示される人は、自分の作品を勝手に変えられるのではという不安が大きいと思います。そうではないということは、広まった方がいいんじゃないかなと。

 

書評に応用できるかも

――他にも、ここを変えたほうがいいと思う点はありますか?

潮谷さん:「メフィストリーダーズクラブ」は基本的に、小説を読みたくて入ってきている利用者が多いと思うので、その人たちが感想や書評を書くときにAIでサポートするような仕組みを作れば、NOVEL AIも活用されるのではないかなという気はするんですよね。

 私はもう3年くらい本を出させていただいているんですが、感想を書いてくださる方はまだまだ少ないので。Xなど短文は結構書いていただくんですが、ブログなどで長文を書いてくださるという方はほとんどいないんですよね。書いていただけるとありがたいです。ブックマークをつけて時々見返したりしています。

――感想は、小説という全体のエコシステムが大事な要素ですね。

潮谷さん:そうですね。繰り返しになりますが、デビューしたい人が、自分の文章がおかしいかどうか分からない時の確認に利用できると思うので、賞に投稿したい人にNOVEL AIを案内すると、結構利用者が増えるんじゃないかなという気がします。

 

「人に近づくAI」を目の当たりにできる面白さ

――NOVEL AIをはじめとしたAIはこれからどんどん発達していくと思います。広くAIを使うことに関して、また、AIが出てきたことに関して、素直な思い、感想を教えていただけますか?

潮谷さん:いち作家として、全く脅威を感じないわけではありません。NOVEL AIは人間の補助的な役割ですが、今後、小説家より面白い小説を書いてくるものが出ないとは限らないですし。

 一方で、将棋の藤井聡太8冠は、AIを研究して自分の腕を上げてきたそうです。人間は、AIが作り出すものから予想もつかない刺激を受けて、また新しいものを作り出せるんじゃないかなという気もします。

 作家としてSF的な作品を書いていたりもするんですが、人間的なものではなかったAIが、だんだん人間的な判断に近づいていくという過程は、今の時代の作家でないとリアルタイムで見られないと思うので、そこも注視していけば、面白い小説が書けるんじゃないかなという気もします。

 例えば産業革命の時代に、汽車が出るのを目の当たりにした作家は、その時代の人たちにしか書けない臨場感を持って作品に描けると思うんですよね 。今、コンピューターが人間に近づく瞬間を目の当たりにするかもしれないので、そこを取材というか、書けたらなと思っています。

――今まさに、すごい変化が起きていますもんね。

潮谷さん:追い抜かれるかもしれないのは恐ろしいのですが、その変化の瞬間を、自分たちで創作するものとして見てみたいな、という気もします。

 

雑誌をインタラクティブに

――小泉さん、この先AIによってメフィストが次の新しい形に変わっていくようなことって考えられますか? 

小泉さん:メフィストリーダーズクラブのインタラクティブな機能としては、気になる文体を選ぶとAIがおすすめの本を教えてくれる「美読倶楽部」と、NOVEL AIのように、アクションに対して評価が戻ってくる仕組みがあるんですが、今後もそのような、コミュニケーションのツールとして何かできたらいいですよね。

 そういう意味では、オンラインのライブ配信イベントは参加者の満足度が高いんです。土曜日の夜などに作家さんが登壇されるライブを視聴しながら、読者さんがリアルタイムでコメントや質問を書き込んでくれて、作家さんがそれに応える。対面では実現するのが難しいことでも、オンラインだからこそできることがあります。こういった新しい体験ができることはとても好評で、たくさん感想をいただいています。雑誌だけを作っている頃は提供できなかったことで、作家さんも喜んでくれてます。そうしたものの一つとしてAIが何かできたらいいなあと思うんですが、具体的に何がというのは私もまだノーアイディアです。

 雑誌はどうしても一方通行なんですよね。せっかく、紙だけじゃないコミュニティを作っているので、インタラクティブなところはもっと増やしていけたらいいなと思っています。

 

コンピューターは「面白い」を判断できるか?

――最後に潮谷さんに質問です。NOVEL AIは、作家側の目線で原稿を見てくれているのではないかとおっしゃっていましたが、逆に読者目線のAIもあるといいと思われますか?

潮谷さん:そうですね……読者目線は意外と難しいといいますか。読者という一人の人間はいないので。例えば、読者目線を集めてそれに対応する作品を作るとなると、読者が読んだいろんな作品を収集することになると思うんですけど、それはそれで平均的なものになって、求められるものではなくなると思うんですよね。今のところは、その役割じゃない方がいいかなという気はしないでもないです。

 特に、「面白い」という判断は、人間でもはっきりと「これがベスト」とは言えないと思うので。もし「面白い」をコンピューターが判断できるようになったら それこそすごい進化だと思います。


NOVEL AIについて

「NOVEL AI」は、ジールの「StoryAI」を講談社文芸第三出版部向けにOEMで提供しているサービスで、2023年4月20日の正式リリース後、MRC有料会員向けに提供されています。OEMの元となったStoryAIは2020年8⽉14⽇にリリースされた「Storyを機械学習で感情分析し、改善点を提案する」サービスです。これまで延べ4600万⽂字以上を対象に分析・改善提案を行っており、改善提案によるアップデートは110万⽂字以上におよびます。最近では日本国外からの登録が伸びており、新規サインアップの約75%が国外ユーザーです。利用プランは、コンシューマー向けにFree、Starter、Proを、エンタープライズ向けにBusiness、Enterpriseをご⽤意しています。

NOVEL AIのご案内

NOVEL AIは以下のURLからMRCにアクセスし、「NOVEL AI」をクリックしてください
URL:https://mephisto-readers.com/

StoryAIのご案内

StoryAIは以下URLよりアクセスしてください
URL:https://storyai.app

 

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