背景と課題
製薬会社向け医療情報分析・提供サービス「DATuM IDEA」の機能・性能強化に向けWebツールのリニューアルに着手
日本を代表する総合印刷会社であるTOPPANホールディングス。近年では、長年培った印刷テクノロジーをベースに様々な新事業を展開しており、2015年よりTOPPANグループが重点的に取り組むべき成長領域として「健康・ライフサイエンス」「都市空間・モビリティ」「教育・文化交流」「エネルギー・食料資源」といった人々の生活に直結する4つの領域を定め、市場・顧客起点での事業領域の拡大に向けてチャレンジを続けている。
健康・ライフサイエンス領域におけるビジネスの1つが、2023年4月に提供を開始した医療情報分析・提供サービス「DATuM IDEA(デイタムイデア)だ。これは次世代医療基盤法に基づき、認定医療情報等取扱受託事業者との連携によって収集、匿名加工された電子カルテデータを、製薬企業をはじめ、アカデミア、医療機関に提供するもの。多様なニーズに対応できるよう、ダッシュボード画面となるWebツールをはじめ、解析・レポートサービス、そして、データセットの提供といったメニューを用意している。
事業開発本部 ヘルスデータ事業推進センター 製薬ビジネス部 部長の伊藤 克髙氏は「現在、国内約58施設の医療機関から電子カルテデータを収集し、製薬企業やアカデミア、医療機関に提供しています。医療ビッグデータを活用していただくことで、まだ治療法が見つかっていない疾患に対する医療ニーズの顕在化をはじめ、医療データベースの活用による早期の医薬品開発を支援しています」と説明する。
TOPPANホールディングス株式会社 事業開発本部 ヘルスデータ事業推進センター 製薬ビジネス部 部長
伊藤 克髙氏
TOPPANホールディングス株式会社 事業開発本部 ヘルスデータ事業推進センター 製薬ビジネス部
森田 祐生氏
そうしたDATuM IDEAだが、さらなるサービス向上のため、製薬会社向けWebツールの機能、および性能の強化に取り組むことになった。
事業開発本部 ヘルスデータ事業推進センター 製薬ビジネス部の森田 祐生氏は、「DATuM IDEAのWebツールを利用したり、導入を検討したりしている製薬会社から、患者数や症例件数などのデータ数の確認だけでなく、診断や投薬開始後の検査値結果の時系列での推移や、検査結果を踏まえた患者集団間の比較確認など、より詳細な分析機能の実装が求められていました。その一方で、利用ユーザーと提供データの増加に伴い、Webツールのダッシュボード画面の表示が遅くなるなど、性能面における問題も発生していたのです」と語る。
事業開発本部 ヘルスデータ事業推進センター 製薬ビジネス部の石川 元樹氏も、「これまでのDATuM IDEAのシステム基盤はデータウェアハウス(DWH)およびデータマート(DM)にSnowflakeを、Webツールは既成のBI製品を用いて構築されていました。しかし、先述した機能強化を行おうとした場合、より複雑な処理が発生するため、さらなる性能の劣化が危惧されていました。そうしたことから、機能および性能の強化にはサービス基盤の再設計が不可欠と判断し、DMの見直しとBIツールの再選定に踏み出しました」と説明する。
TOPPANホールディングス株式会社 事業開発本部 ヘルスデータ事業推進センター 製薬ビジネス部
石川 元樹氏
採用のポイント
Webツールのリニューアルに向け複数のデータマート、BIツールを比較検証
マルチベンダー対応が可能なジールをパートナーに選定
TOPPANホールディングスはDATuM IDEAのWebツールのリニューアルを行うにあたり、「患者層の設定や条件が自由に設定できる」「結果や経過が時系列で把握できる」「今後、データが増えてもストレスなく操作できる」ことを要件に掲げ、DM、そしてBIツールの再選定に着手する。「合わせて、機能要件に対してDMやBIツールが性能面でどこまで耐えられるのか、プロトタイプの開発を行うとともに性能検証を実施することも定めました」と、石川氏は補足する。
TOPPANホールディングスはこれらの要件をとりまとめ、複数のベンダーに提案を依頼。最終的にプロジェクトをサポートするパートナーとして選定されたのが、ジールだった。
「ベンダー各社に提案を依頼するにあたっては、当社が指定した複数DM、およびBIツールの性能を比較検証したうえで最適なソリューションを選択し、そのうえで、追加機能を開発することを定めました。そうした要件に対し、ジールは私たちの提案依頼に対して多くの質問を投げかけてきたことに加え、提案書にもDATuM IDEAが抱える課題を解消するための具体的なアプローチまで盛り込まれていました。そうしたジールの姿勢からは、しっかりとプロジェクトを伴走支援してくれるという強い意志が感じられ、パートナーとして選定しました」(石川氏)
また、ジールはマルチベンダーに対応しており、TOPPANホールディングスが比較対象として選定した複数のDM製品やBIツールのすべてに構築実績を持っていたことも採用を後押しした。
導入のプロセス
製品選定のための性能検証から機能要望に応じた画面開発まで全方位でのサポートを提供
今回ジールはTOPPANホールディングスとともに、複数のDM/BIツールを用いたプロトタイプ開発から、性能比較検証による製品選定、そしてBIツールの画面開発までを伴走支援している。はじめに製品選定であるが、性能検証の結果、DMは既存のSnowflakeを継続利用し、設計の見直しによって最適なサービス品質を目指すことを決定した。
具体的には、従来Webツールから直接DMにアクセスしデータの抽出を行っていた仕組みの再設計を実施。用途ごとに分けられたDMを新たに設計するとともに、BIでデータを分析するにあたって用途別DMとBIの間に抽出機能を実装。分析に必要なデータをいったん絞り込んで抽出した後に、表示させることで性能を担保するという仕組みを構築した。
一方、Webツールは、豊富な機能を有し様々な要件に応えることが可能なウイングアーク1stのBIツール「MotionBoard」の採用を決定した。
プロジェクト推進・技術支援のポイント①
TOPPANホールディングスと会話を重ねながら複数のツールを比較検証し、最適な製品選定を実施
株式会社ジール 大阪支社 大阪DXコンサルティング部 シニアコンサルタント
山出 透
今回、プロジェクトマネージャーを担当したジールの山出 透は、「要件定義と性能検証を含めた製品選定を並行して進めていくにあたり、まずは全体計画を策定しました。計画策定後は引き続き、TOPPANホールディングス様とジールの間でスムーズなコミュニケーションを図りながら、タイトな開発スケジュールの中でもプロジェクトを円滑に進められるよう努めました」と説明する。
また、TOPPANホールディングスとともに、製品選定と性能検証にも取り組んだ。「TOPPANホールディングス様と常に会話を重ねながら性能検証と製品選定を行ったのですが、DMについては柔軟な機能性を評価したことに加え、短期間でのシステム構築も必須であったことから別製品へ置き換える必要性は高くないと判断し、Snowflakeを継続利用することを決定しました」(山出)
プロジェクト推進・技術支援のポイント②
Webツールの強化に対応する数々の機能群を評価し、MotionBoardを採用
今回、Webツールの基盤としてMotionBoardが採用されたが、画面開発を担当したジールの滝口 大智は、次のように理由を語る。
「MotionBoardはツール側からDMに動的にクエリを投じたり、ユーザーが検索条件を設定してインタラクティブに結果を表示させたりするなど、TOPPANホールディングス様の要望に応える機能を持っていたことが選択の理由となりました。また、個人情報を類推できるような懸念があるデータについて、MotionBoardであれば情報を秘匿できるような仕組みを有しているなど、次世代医療基盤法で定められた要件に対応可能であることも選択の理由となりました」(滝口)
一方、BI画面の開発に関して滝口は、「今回のプロジェクトでは、TOPPANホールディングス様のエンドユーザーとなる、製薬会社様のニーズに適合した画面を開発する必要がありました。そうしたことから、製薬会社様が求めるよう画面レイアウトや操作性を実現できるよう、サンプル画面を開発、提示してTOPPANホールディングス様から常に意見をいただき、画面のブラッシュアップを進めていきました。同時に、処理性能の担保にも留意しながら設計に尽力しました」と語る。
株式会社ジール データドリブンサービスユニット データドリブンコンサルティング2部
滝口 大智
プロジェクト推進・技術支援のポイント③
円滑なプロジェクト推進に向け、現場のコミュニケーション円滑化に注力
株式会社ジール データドリブンサービスユニット データドリブンコンサルティング2部 シニアアソシエイト
山本 瑞城
プロジェクトリーダーを担当したジールの山本 瑞城は、現場における円滑なコミュニケーションを実現するためのサポートに努めた。
「現場で開発しているスタッフに共有事項を伝えたり、逆に現場レベルで発生している課題をプロジェクトマネージャーに伝えたりするなど、『何か相談事や不明な点が生じたら山本に聞けばよい』と思ってもらえるよう、スムーズな情報共有に努めました。特に今回は複数のWebツールのダッシュボード画面の開発が行われており、それぞれに異なる開発担当者がアサインされていたほか、DM領域の開発を担当している他の協力会社もおり、TOPPANホールディングス様をはじめ関係者全員のコミュニケーションが上手く回るよう取り組みました」(山本)
導入効果と今後の展望
性能を担保しながらWebツールの大幅な機能強化を実現
顧客である製薬企業からも高評価を獲得
リニューアルしたDATuM IDEAのWebツールは、2025年1月から提供が開始されている。これまでのWeb ツールでは患者数や症例件数といったデータ数の確認のみが可能だったが、患者背景、傷病、薬剤など複数項目を自由に設定して対象患者集団を階層的に絞り込める高度な「抽出機能」をはじめ、様々な角度から患者の治療実態を分析し、グラフによる可視化ができる「統計分析」、匿名加工された電子カルテデータから収集した検査値を用い、投薬による治療効果などを分析できる「アウトカム分析」などが実現されている。
森田氏は「リニューアルしたDATuM IDEAの機能強化への反応は大きく、2月時点で既に20社ほどのお客様との面談や、新機能のデモンストレーションを行っています。実際、製薬会社様からも『検査値をWebツールで見られるツールはこれまでなかった』など、多くのご評価をいただいています」と話す。
また、伊藤氏も「DATuM IDEAのWebツールの機能強化がフックとなって、DATuM IDEAのビジネスが拡大することはもちろん、他サービスへの商談にも繋がっていくことを期待しています。実際、デモ動画などの説明がきっかけとなって他サービスにも関心を寄せてくれるお客様も増えています」と語る。
事業開発本部 ヘルスデータ事業推進センター 製薬ビジネス部 チームリーダーの鈴木 優介氏は「今回のプロジェクトでは機能と性能要件満たしながら、限られた期間で早期に開発してリリースすることが求められていました。そうした中で、ジールの手厚いサポートにより、Webツールのリニューアルを実現することができました。今後も製薬会社様や医療機関の要望に応えた機能・性能の拡充に取り組んでいきますが、引き続きジールにはDATuM IDEAを強化するための支援をお願いしたいと考えています」と今後の展望とジールに対する期待を語った。
TOPPANホールディングス株式会社 事業開発本部 ヘルスデータ事業推進センター 製薬ビジネス部 チームリーダー
鈴木 優介氏
(写真左から)
TOPPANホールディングス株式会社
事業開発本部 ヘルスデータ事業推進センター 製薬ビジネス部 石川 元樹
事業開発本部 ヘルスデータ事業推進センター 製薬ビジネス部 森田 祐生
事業開発本部 ヘルスデータ事業推進センター 製薬ビジネス部 チームリーダー 鈴木 優介
事業開発本部 ヘルスデータ事業推進センター 製薬ビジネス部 部長 伊藤 克髙
株式会社ジール
大阪支社 大阪DXコンサルティング部 シニアコンサルタント 山出 透
データドリブンサービスユニット データドリブンコンサルティング2部 シニアアソシエイト 山本 瑞城
データドリブンサービスユニット データドリブンコンサルティング2部 滝口 大智
営業部 コンサルティング営業1部 グループリーダー 瀧 真理子
※本事例内容は取材当時のものです